意外とできたよな。今回もできるんじゃないかな」
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松崎一葉(筑波大学大学院医学系・教授)
同じような環境で、同じような仕事内容で働いていても、
病気になる人とならない人がいます。それはなぜでしょうか。
うつ病に限らず、すべての疾病は
環境要因と個体要因のバランスによります。
例えばどんな屈強な男性でも、
何日も寝ないで重労働に従事すれば
体を壊してもおかしくはありません。
それが環境要因です。
一方で本人の資質に起因する病もあり、
特に精神的な病の場合、その人のストレスの
感じ方によるところも大きいでしょう。
その昔、医療社会学者の
アーロン・アントノフスキーが
ユダヤの強制収容所から生還した人たちの
健康調査を継続的に行ったところ、
一部の人たちはとても長生きをしたことが分かりました。
そしてその人たちは、共通して
次の三つの特性を持っていたと報告しています。
一、有意味感
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つらいこと、面白みを感じられないことに対しても、
意味を見いだせる感覚。
明日ガス室に送られるかもしれない中でも、
自暴自棄にならずに、きょうの労働に精を出せること。
我々のレベルに置き換えると、
望まない部署に配属されても、
「将来なんかの役に立つかもしれないし」と思って
前向きに取り組めることといえます。
二、全体把握感
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先を見通す力、とも置き換えられるかもしれません。
つらいことに直面すると、
人は一生それが続くように感じてしまいますが、
「ひとまず夜がくればこの過酷な労働も終わりだ」とか、
「いつかは戦争が終わって解放されることもあるだろう」
と思えること。
仕事に転じれば、例えば今週は忙しくて
土日出勤になったとします。
「なんて忙しいんだ」と思うのではなく、
「今週は休めなかったけど、
来週のこの辺は少し余裕ができるから、そこで休めるな」
など、先を見て心の段取りが取れること。
それはそのまま仕事の段取りに通じます。
「来週のこの辺で忙しくなりそうなので、
他部署からヘルプをお願いできませんか?」
と、パニックになる前に助けの要請を出せることで、
自分もチームも円滑に仕事が回せるのです。
三、経験的処理可能感
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つらい強制労働など、最初はこんなことは
絶対にできないと思っても、
「そういえばあの時もできないと思ったけど、
意外とできたよな。今回もできるんじゃないかな」
と思えること。
初めて手がける仕事でも、過去の経験から
この程度まではできるはず、
でもその先は未知のゾーンだと冷静に読める。
ただ、その未知のゾーンも、
あの時の仕事の経験を応用すればできるかなとか、
あの人に手伝ってもらえそうだなと把握できる感覚です。
また、大きくとらえれば、学生時代に努力して
練習したら大会で優勝できたじゃないかとか、
先生に無理だと言われたが、頑張って勉強したら
志望校に合格できたから今回もできるのではないか、
と思えることも、経験的処理可能感といえるでしょう。
これら三つの感覚はSOC(Sense of Coherence)と呼ばれ、
一般的にストレス対処能力を測る物差しとされていますが、
簡単にいってしまえば、
「きっとうまくいくに違いない」という
情緒的余裕と経験に基づく楽観性ではないかと思います。