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将棋には3つの礼があります。初めの礼は「お願いします」の礼、次は、投了の「負けました」でお互い行う礼。そして、駒を一つの箱にしまった後で言う「ありがとうございました」の礼。
将棋は、対局した駒達が一つの箱にお互いが一緒になりしまわれます。これも日本の美学、まさに伝統文化です。将棋をすることで、お互いを認め合い、切磋琢磨することで精神的にも成長していくことができます。『号泣のあの子』
それは、2回戦が終了した時でした。一人の子が号泣しています。初戦に続きまたもや負けてしまったのでした。あきらかに自分の負けに対する不甲斐なさのため、悔し涙が流れている顔でした。近づいてみる
と大きな瞳に一杯涙をためて私に訴えるような表情で助けを求めているのでした。私は「将棋は負ければ負けるほど強くなるゲームなんだよ」「君は偉いね! きっと強くなるよ!」と慰めの言葉をかけたのです。すると、隣の子がすかさず「そうだ、そうだよ! 俺も2連敗やで〜大丈夫! 大丈夫!」と独特の関西弁で慰めてくれたのでした。
するとその子は少し安心したように、胸の対戦カードに判子を押してもらい、次の対戦を決めるために立ち上がったのです。私は後ろからその姿を追い、スタッフのお姉さんの列に並ばせたのです。するとそのスタッフは、「大丈夫よ! 次はがんばってね!」と励ましの言葉をかけてくれたのです。私はその子の頭をなでてその場を立ち去り、高学年部門へ向かいました。
3回戦が終わった後、あの子のことが気になり、もう一度低学年部門のフロアに戻ろうとした時でした。「ぼく勝ちました」とあの子が笑顔で話しかけてきたのでした。「それはよかったね」と言った後ろには、その子の両親が笑顔でお辞儀をしている姿がありました。 関係者の心配り、スタッフの一言、友達の一言、両親の見守り、などがこの大会の『将棋で「ココロ」を育てたい。』というメッセージになっているのです。
「無言の伝え合い」
将棋は、常に最善手を模索し合う競技と言い換えることもできるかもしれません。一つの勝ちという目標を対局者二人が模索し合う中で相手との阿吽の呼吸、無意識の伝え合いがなされていることは、実は相手に勝つのではなく、自分の心に克つのだということがわかってきます。まさに将棋は無言の伝え合い、学び合いなのでしょう。 きっと、あの涙はその子にとって大きな心の成長になったのだと思いました。
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